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2006年09月21日

●李登輝先生講演原稿5

【誠意ある実践こそ日本精神】(2006/9/18)

 武士道とはかつて日本人の道徳体系でした。封建時代には武士が守るべきことを要求されたもの、もしくは教えられたものです。
 それは成文法ではない、精々、口伝による、もしくは数人の武士、もしくは学者の筆によって伝えられた僅かの格言があるに過ぎず、むしろそれは語られず、書かれざる掟、心の肉稗に録されたる律法たることが多いのです。不言不文であるだけ、実行によって一層強い効力が認められているのです。

 それはいかに有能なりといえども1人の人の頭脳の創造ではなく、またいかに著名なりといえども1人の人物の生涯に基礎するものではなく、数十年、数百年にわたる武士の生活の有機的発達でありました。それがやがては日本人の行動基準となり、生きるための哲学にもなりました。

 具体的には、武士道精神は公の心・秩序・名誉・勇気・いさぎよさ・側隠の情・網行実餞を内容にしつつ、日本人の精神として生活の中に深く浸透していったのです。

 日本精神について、台湾嘉南大しゅう、烏山頭水庫(ダム)を建設した八田輿一氏を例として述べましょう。
 嘉南大しゅうの潅漑面積は15万窄鳥山頭ダムの水源建設総工事費は400万円、当時の台湾総督府の年間予算に匹敵する大工事でした。工事期間は10年、32歳の著さでこの巨大工事を成し遂げた八田氏は、この工事でソーシャルジャステイスを実践、日本人精神を発揮しました。鳥山頭ダムと濁水渓から取り入れた水は合計1億5000万トン。しかし、これでは十五万ヘクタール全域に給水することは不可能でした。

 八田氏は普通の土木工事の技術者と違い、『ダムと水路を完成すればそれで終わりである!』とは考えませんでした。彼は農民のためにダムや水路を造るのであれば、何とかして農民にあまねく水の恩恵を与え、生産が共に増え、生活の向上があって初めて工事の成功であると考えました。彼はこのために、三年輪作という桝作方法を考え、水をすべての農民に行きわたる方法を講じました。

 嘉南大しゅうの工事で134人もの人が犠牲となりました。・完成後に殉工稗が立てられ、その稗には全員の名前が台湾人、日本人の区別なく刻まれていました。
 関東大震災の影響で予算が大幅に削られ、従業員を退職させる必要に迫られたことがありました。その時、八田氏は幹部の『優秀な者を退職させると工事に支障が出るので、退職させないではしい』という言い分に対し、『大きな工事では優秀な少数の者より、平凡な多数の者が仕事をなす。優秀な者は再就職が簡単にできるが、そうでない者は失業してしまい、生活できなくなるのではないか!』といって、優秀な者から解雇しています。

 八田夫婦が今も台湾の人々によって尊敬されるのは、義を重んじ、誠をもって率先垂範、実践媚行する日本的精神が脈々と存存しているからです。八田夫婦の例を挙げて、私がここで皆さんに申し上げたい事は、日本精神の良さは、口先だけではなく、実際に行う、誠実をもって行うというところにこそあるのだということです。

(注:リンクはedaatsによるもの)

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